黒にならなかった「KURO」、先駆者パイオニアがテレビ事業完全撤退
2009年2月12日、パイオニアが薄型テレビ事業(ディスプレイ事業)からの完全撤退を発表した。
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20090220/1023913/?top
記者会見での小谷進社長の表情からは、その無念さを強く感じた。小谷社長は会見で次のように述べた。
「国内外で高い評価を持つKUROをはじめ、技術面では自信を持っている。技術者たちの思いも十分わかっているつもりだ。プラズマテレビ事業は、続けられれば続けたいと思っていた。なんとか続けられないかと手を尽くした。ただ、昨年10月から急激も経済環境が悪化し、薄型テレビの価格下落が、想定をはるかに上回るスピードで進展した。我々が進める構造改革のスピードでは損益改善ができないことが明白になった。パイオニアが再び立ち直り、光輝くにはこの判断しかなかった」
「先駆けとなった事業を断念するのは断腸の思い」と話すと、「ユーザー、販売店をはじめ、これまでご支援を頂いた皆様に感謝したい」と頭を下げた。
プラズマテレビ事業からの撤退を発表し、無念の表情を見せるパイオニアの小谷進社長(画像クリックで拡大)
パイオニアは1997年、50型の家庭向けプラズマテレビを世界で初めて発売した。2004年にはNECからプラズマ事業を買収して体制を強化。事業拡大に向けた地歩を固めてきた。
2007年からは「KURO」のブランド名で、パイオニアならではの高い映像技術を生かしたプラズマテレビを投入。店頭ではKUROのコーナーを特別に用意し、画質と音質へのこだわりを訴求してきた。その結果、画質にこだわりを持つユーザーから高い支持を得ていた。
店頭でのKUROコーナーにおける画質と音質のコラボレーションは、他社の製品を圧倒していた。それは、体験した多くの人が感じたはずだ。
だが、同時に価格も、別の意味で、他社製品を圧倒していた。
年率20~30%の価格下落が進展している薄型テレビ市場において、パイオニアの商品だけは値段が下がらず、他社製品に比べて、ざっと1.5倍から2倍も高かった。
価格の高止まりは、付加価値戦略の象徴でもあったが、一方で、市場の拡大にあわせた形で事業を拡大することができず、その結果、KUROをはじめとするプラズマテレビ事業は赤字のまま、黒字化はしなかった。
低価格化に逆行する戦略は、選択肢のひとつとしては正しい。とくに、パイオニアという企業体質を考えれば、それは当然の選択だったとも言える。もしそうしなければ、コモディティー(一般に普及し日用品化すること)戦略を不得手とするパイオニアは、もう少し早い時期に事業撤退に追い込まれていた可能性も否定はできないだろう。
これからの焦点をあげるとすれば、パイオニアが持つプラズマパネルに関する数多くの特許を、提携関係にあるパナソニックに、どう供給していくのかといった点だろう。
2008年4月のプラズマパネルに関するパナソニックとの包括提携で、既にパイオニアの技術者がパナソニックに転籍しており、パナソニックにしてみれば、パイオニアが持つ特許を含めてプラズマ技術の地盤を固めたいと思っているはずだ。
売り場では存在感があったパイオニアのKUROシリーズ。画質や音質にこだわるユーザーから支持されていた(画像クリックで拡大)
2008年4月24日のパナソニックとパイオニアのプラズマ技術に関する包括提携発表でパナソニックの森田研常務役員と握手する、当時常務執行役員のパイオニアの小谷進社長(右)(画像クリックで拡大)
パイオニアは、これまでにもその名の通り、先駆者としての役割を果たしてきた。プラズマテレビの前にも、かつてのDVDレコーダー/プレーヤーでは多くの特許を持ち、市場の黎明期(れいめいき)にはシェア争いにも強い存在感を発揮していた。レーザーディスクは、まさに同社の先駆者としての技術力が発揮された最大の製品だったと言えよう。その流れを引く光ディスク事業も他社との合弁を含む損益改善策を検討している。
今回のプラズマテレビ事業の撤退は、先駆者としての役割を果たした同社が、コモディティー化した市場環境に入った途端に失速するという悪い癖がそのまま表れたものだ。
デジタル家電分野では、DVDに続いて2度目のコモディティー戦略の失敗だ。言い方を変えれば、DVD事業での失敗がまったく生かされなかったところに、今回のプラズマテレビ事業からの撤退があるとも言える。
パイオニアには先駆者だけで終わってほしくない。プラズマテレビの品質を知るユーザーはそう思うはずだ。
ホームエレクトロニクス事業は当面の間、縮小することになる。2010年度以降に目指す全社黒字化を経て、改めてホームエレクトロニクス事業を加速する時期もあるだろう。
そのときには、コモディティー化した市場でも戦えるノウハウを身につけていてもらいたいものだ。
2008年1月のCESで北米向けに発表したKURO(画像クリックで拡大)
著者
大河原克行(おおかわら かつゆき)
1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、約20年にわたって、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、パソコン誌、Web媒体などで活躍。nikkeiBPnetの「ビジネス・フォアフロント」の連載を担当。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)などがある。
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